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2025/06/13 11:32



写真4枚ともハズムLong、タクマShort着用
「一緒にモノづくりしませんか」という話をハズムさんからもらったのは、今から約半年前のこと。
古着とアウトドアの経験値がある僕と、オリジナル製作の経験値があり発信力に長けたハズムさんとのコンビならより良いモノづくりができるはず。そう考えて、提案は二つ返事で引き受けた。
僕にとっては初めてのオリジナル製作ということもあり、本業である古着屋を営みながらも発売するまで常に頭の中には企画のことがあった。修正に修正を重ね、足し引きの必要がないベストなプロダクトに仕上がったと感じている。振り返りや記録を兼ねて、今回発売を迎える「Side Roll Shorts」の半年間にわたる制作過程を綴っていきたい。
【目次】
1.はじめに
2.コンセプト
「古着のサマーシャツに合うシティショーツ」
3.名前
「Side Roll Shorts:名脇役ショーツ」
4.素材
「コットンライクなSUPPLEX NYLON®︎」
5.シルエット・形
「フルスクワットは必須条件」
6.ディテール
「シティショーツのあるべき姿」
7.カラー
「全てをカバーする4色」
8.おわりに
◾️1.はじめに
僕は常に「既に手に入るものなら作らない方が良い」と思っていて、半端なアイデアで作りたくないが故にオリジナル製作には腰が重かった。だが、古着で手の届かない痒いところがあるとも前から思っていた。
その1つが”古着のサマーシャツに合う汎用ショーツ”。僕自身、夏場はアロハやプリントTなどのトップスが主役のコーディネートが多く、さまざまなトップスと合わせやすく、かつ引き立ててくれる名脇役ショーツが欲しかった。
名作とされるショーツは既にいくつか存在するが、痒いところに手が届かないことも多く、だったら僕らが考える最優秀助演ショーツを作りたいと思い立った。
オタク性の僕らはどこか似ているところがあり、コンセプトを決めてからのやり取りはスムーズだった。サンプルを作り、履いてテストしたらフィードバックを送り、サンプルを作り...の繰り返し。
僕らは東京と大阪で拠点が離れているので、メッセージやビデオ通話で議論しながら、試作品が上がるタイミングでは直接会って試行錯誤を重ねた。


◾️2.コンセプト
「古着のサマーシャツに合うシティショーツ」
形や素材などは古着のサマーシャツに合わせて履くことを想定してすべて設計している。
機能面はアウトドアプロダクトをベースにしながら、タウンユースを優先した作りにしている。アウトドアとシティのどちらに寄るかで作りが異なってくるが、ほとんどの人にとっては街履きする機会の方が断然多いはず。着用シーンの頻度に応じてシティショーツに振り切った。
尖ったデザインにするのではなく、どんなトップスにも合わせやすく、誰もが履きやすい最大公約数のデザインを心がけた。味の濃いおかず(サマーシャツ)に合わせる白ごはんのような存在が良い。ファッションが好きな方も、得意でない方にも履いてもらえると嬉しい。
◾️3.名前
「Side Roll Shorts:名脇役ショーツ」
先にも述べた通り、今回作るショーツは全身コーディネートの中ではあくまでトップスを引き立てる名脇役という位置付けとなる。
その意味から「Side Roll Shorts」と名付けた。外面に刺繍やピスネームなどのタグは一切付けず、ヒップポケットは玉縁ポケット式を採用するなど極力シンプルな見た目にこだわるのも、あくまで脇役に徹するためだ。
◾️4.素材
「コットンライクなSUPPLEX NYLON®︎」
コンセプトと名前の次に考えたのが素材。
今回は高機能ナイロン素材のSUPPLEX NYLON®︎(サプレックスナイロン)を採用しており、そこに至るまでの経緯と素材の特性について話していく。
素材を考える上でまず考えたのが、合わせるサマーシャツの素材バリエーション。
コットンやリネン、シルクなど天然繊維のものもあれば、シアサッカーシャツやアロハなどにはポリエステルやレーヨンなどの化繊が使われているものも多い。
ショーツの素材は天然繊維に寄り過ぎると取り回し易さが化繊に劣ってしまうし、逆に化繊感が強いと天然繊維のトップスとの相性が劣ってしまう。
そこで今回採用したのがSUPPLEX NYLON®︎。
SUPPLEX NYLON®︎とは高強度のナイロン66糸を細く加工し、高密度に織り上げることで柔らかいコットンのような質感とナイロンの機能性を両立させた高機能ファブリックだ。
マットな質感で、どんなトップスにも合わせやすい(昔のナイロンによく見られた“テカリ”がない)。
さらに、蒸れにくくて柔らかい。そうした特徴から今回のコンセプトにおける最適解だと判断した。
これまでサプレックスを使用した約30年選手の古着ショーツを幾度となく手にしてきたが、経年変化の仕方は褪色して毛玉が出るなど化繊というより天然繊維っぽいところも気に入った。
ちなみに、ハズムさんはこの企画が走る前からSUPPLEX NYLON®︎に目を付けていたということもあり、DANの事務所テーブル上には以前からスワッチ(生地サンプル)が置いてあった。
まるで元々決まっていたかのようで不思議である...
◾️5.シルエット・形
「フルスクワットは必須条件」
僕は服を選ぶ上で身軽さを大事にしている。モビリティ(身体の可動域)を制限するような服は着ない、というのが自分のポリシーだ。
ショーツで言うと、しゃがんだときに生地がつっぱったり、短すぎて裾が際どいラインまで上がってしまうものはNGだ。端的に表現すると、履いてフルスクワット(お尻が床に近づくまで深くしゃがむ動作)ができるものが良い。そして過度に上がってハレンチにならない長さ。
まずは理想のシルエットを決め、その上で微調整を重ねた。
見た目の美しさと動きやすさの両立を目指した。
シルエットはワイズ(幅)・レングス(長さ)ともに極端すぎず、ちょうど良い塩梅に仕上げている。
ワイズはリラックスしたムードで誰もが履きやすくするため広めにしているが、トレンドに左右されないよう極端にはしていない。
基本的に僕らは同意見だったが、レングスに関してはハズムさんが膝に被らない程度の長め、僕が膝上の短め、と好みが異なったため、同様の作りで長さを変えて2パターン作成することにした。

ハズム(左)Long着用、タクマ(右)Short着用
ハズム180cm、タクマ171cm

ハズムがShortを着用したパターン。身長180cmのハズムさんが履くとより膝上になり、アウトドア感が増す。

タクマがLongを着用したパターン。ちょうど膝にかかるかどうかの長さで、Shortよりもリラックスしたムードが感じられる。
身長が高い方や長めが落ち着く方はLong ver.を、膝上のヘルシーな長さが好みな方はShort ver.をどうぞ。長さは好みが分かれるポイントなので、僕らの着画や動画を見てじっくり悩んでほしい。
シルエットの観点からどちらのパターンも裾にスリットはいれていない。今回の仕様でスリットを入れると裾がフレアっぽくなりやすいからだ。フロントやバックだけでなく、横から見たときの「ストン」と落ちるラインも綺麗なので、是非履いて横から見てみてほしい。

ハズムShort着用
股下の構造においてはモビリティの向上と補強のため、股下にガゼットクロッチ(股下に挟み込む別布)を採用している。機能的なアウトドアショーツで採用されることのあるディテールだ。

オールド物のナイロンショーツでは硬くてタイトなあまりに生地がつっぱってしまい履く人を選ぶものもあるが、僕らは体格の良い方が履いてもストレスを感じないように設計している。ぜひ履いた状態でしゃがんだり捻ったりして動き易さを体感してほしい。サプレックスの柔らかい着心地も感じられると思う。
◾️6.ディテール
「シティショーツのあるべき姿」
一番のポイントは、ウエストのクロージャー(締め方)部分だ。今回僕らはウェービングベルト(バックルレスでワンタッチ式の布製ベルト)を採用している。
タウンユースを想定した場合、ウエスト調整はドローコード(紐のタイプ)よりもウェービングベルトの方が良い。片手で扱え、一瞬で調整できるから。
ドローコードには軽くてかさばらず、アウトドアでのアクション時にも邪魔にならないというメリットがある。ただ、ポケットにスマホや財布を入れた重さで下がらないよう締め直す際や食後に緩める際など、日常での取り回しが効くという点において僕らはウェービングが良いと判断した。
ウェービングの素材において、ゴム入りのものは締めつけが少なく着心地は良いが、数年で伸びてしまいリペアが難しい。そのため、あえて強度を重視した非伸縮素材を選んだ。
ウエスト調整はウェービングだけでも完結できるが、着用感の観点からウエストゴムは入れてある。
ウエストサイズはウェービングを絞ればいくらでも細くできるし、恰幅の良い方でもウエスト100cm程度までなら着用できる設計のため、ONE SIZEで作成した。
また、今回ベルトループを左右に付けている。
アウトドアのナイロンショーツでは付いていないものが多いが、鍵をループに取り付けられるようにするためだ。もちろんベルトを留める意味もあるが、左右どちらでもキーが付けられるよう反対側にもダミーのループを付けている。ループの位置と太さ・長さも見た目の収まりと機能を考えてミリ単位で修正を重ねた。

インナーメッシュに関してはあえて付けなかった。アウトドアシーンにおいて下着を履かないで着用するならあっても良いが、あくまでシティショーツだからだ。
サイドポケットはメッシュではなくナイロンの共生地を採用した。

理由は着用感と耐久性だ。メッシュの利点は通気性と軽さだが、あえて共生地のポケットを後付けにしたのはスマホや財布などを入れることを想定しているから。メッシュだと薄すぎて太腿に直接物が当たるような不快感が出てしまうのと、ポケット内で物がひっかかってメッシュが傷んでしまう恐れがある。また、シルエットの観点からも型崩れしにくく共生地の方が優れている。
サプレックスを使用しているため共生地でも通気性と軽さは問題がない。デメリットとして排水がメッシュよりも劣るが、小さな排水孔(菊穴)を付けることでリゾート先でのプールなど多少のウォーターアクティビティにも対応できる設計にした。共生地にしておいて角だけ切り込みでメッシュを付けるハイブリッド式も検討したが、あくまでタウンユースでの着心地を最優先にしたため今回の形にした。
サイドポケットの深さに関しては、深すぎるとスマホを入れた状態で歩くとき膝にぶつかってしまうため、ぶつからない範囲で適度に深めにしている。
ヒップポケットは外観が目立ちにくいようフラップポケットやパッチポケットではなく玉縁ポケットにしている。留め具は座った姿勢や仰向けで臀部にストレスがないよう、ジップではなくベルクロを採用した。
◾️7.カラー
「全てをカバーする4色」
カラーはブラック、ネイビー、オリーブ、アイボリーの4色展開。
ブラックとネイビーはどちらもダークトーンなので、2色買うと「また似たようなの買ってる」と言われそうだが、色合わせの点で明確な違いがあるのでどちらも作ることにした。
僕の推しカラーはアイボリー。色や柄が強いトップスにはとりあえずこれを合わせておけばなんとかなる。漂白したような真っ白ではなくナチュラルな色なのが良い。
ハズムさんの推しカラーはオリーブ。ジャングルファティーグのようなわずかに淡い色合いで、4色の中で最も汎用性が高いカラーではないだろうか。
◾️8.おわりに
先にも少し述べたが、あくまで僕に期待されているのは古着の販売であって、安易なオリジナル製作ならやらない方が良いという思いがこれまであった。
だが、ハズムさんから話をもらったとき、僕らで組めば良いモノづくりができるのでは?と直感した。
企画が走ってからは常に頭から離れず、サウナに入っていても、波待ちしていてもずっと「これがベストなのか?」と無意識に考えていて、経験から考えうる限りの最善の作りを模索し続けた。
結果、初めてながら及第点どころか自信を持って送り出せるショーツを作ることができた。
一見すると、なんの変哲もない普通のショーツかもしれない。
でも、それでいい。名脇役とは本来そういう存在だと思う。
その過程では細部に渡るまで議論と検証を重ねて、多くの人のワードローブになりうる素晴らしいショーツが完成したという自負がある。
少しでも興味を持ってもらえたら、ぜひDANの店頭や大阪での月1オープンオフィスの際に手に取って、試着してみてほしい。遠方の方には着画や動画が参考になれば嬉しい。
価格は¥13,000(税込)
店頭リリースは6/14(土)-15(日) 12:00-20:00のサマーシャツストアvol.3にて開始。
ONLINEはイベント後の6/15(日) 21:00から開始。
LongはDANのオンラインストア、Shortはエンカウントのオンラインストアにて販売するのでご注意を。
今回提案をしてくれて、半年間二人三脚で取り組んでくれたハズムさんに改めて感謝を述べたい。アパレル製作経験が豊富なハズムさんは僕に足りない視点を持っていて、随所で助けられた。やり取りや撮影など、諸々サポートしてくれたメグさんとリンちゃんもありがとうございました。
長文を最後まで読んでくれた読者の方にも感謝します。少しでも多くの人に僕らの想いやプロダクトが届いてくれたらという願いを込めて、本文を締める。
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